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『孤狼の血』感想(ネタバレ)

あらすじ・キャスト・スタッフ

『孤狼の血』

2018年/日本/126分

監督:白石和彌
原作:柚月裕子
脚本:池上純哉
企画プロデュース:紀伊宗之
プロデューサー:天野和人
撮影:灰原隆裕
照明:川井稔
録音:浦田和治
音響効果:柴崎憲治
編集:加藤ひとみ

キャスト:役所広司、松坂桃李、真木よう子、石橋蓮司、江口洋介、阿部純子

あらすじ
昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島・呉原で地場の暴力団・尾谷組と新たに進出してきた広島の巨大組織・五十子会系の加古村組の抗争がくすぶり始める中、加古村組関連の金融会社社員が失踪する。所轄署に配属となった新人刑事・日岡秀一は、暴力団との癒着を噂されるベテラン刑事・大上章吾とともに事件の捜査にあたるが、この失踪事件を契機に尾谷組と加古村組の抗争が激化していく。

映画.comより)

 

感想

テツコ的鑑賞ポイント

  • 役所広司の暴君刑事っぷりが痛快
  • 生まれ変わった松坂桃李の演技力に圧倒
  • 藤原カクセイの「残酷」特殊造形に死ぬほど泣かされる

 

テツコ
役所広司が最高。

まずそれに尽きます。

役所広司演じる大上。

広島弁がハマりまくってるし、とにかくヤバい男感が満載。

『渇き。』のときのクズすぎる元刑事が物足りなく思えるくらいの暴君っぷりでした。

証拠のテープを入手するために宿を放火したり、ヤクザから堂々とお金を受け取ったりと、捜査のためなら手段を選ばない。違法捜査に次ぐ違法捜査。最高。暴力最高。

 

とはいえ、根っからの悪人ではない雰囲気は初めからどことなく漂ってまして。

尾谷組と仁正会(加古村組・五十子会)に対しても、抗争に発展しないように間を取り持っていたり、戦闘能力が高いのにヤクザを殴るのを躊躇して拳を止めてしまった日岡(松坂桃李)をぶっ飛ばしながら、「寸止めはねえちゃんとやるときだけにしとけや!奴がハジキ持っとったらワレは今ここにおらんのじゃ!」と一喝するところなんかはちょっと圧倒されたり。

(ここの正面からの切り返し、役所広司の顔面力よ。笑)

 

そしてそんな暴君刑事の実態を本部に報告するためにスパイとして送り込まれたのが、広大出身・エリートの日岡だったというね。

さらには大上に14年前の殺人の噂まで出てきちゃうから、もう日岡は大上を辞職に追いやるために証拠集めに必死です。

その後も何かと大上のやり方に反発しまくりながらも捜査を進めていくんですが、尾谷組と仁正会のいざこざは、組員が殺されたり報復したりを繰り返して激化。

加古村を逮捕する前にもう一触即発のムードに。さらに暴走する大上。

 

そして大上が五十子組に殺されてしまう。つらい。

そんな中、大上はヤクザと癒着してるどころか、カタギを守るためにヤクザをコマとして手中に収めていただけだったということが分かりまして。

(ここで、「えぇ!?『県警対組織暴力』じゃなかったのか!」と興奮しました)

さらには、大上は警察上層部の弱みも握っていたため、日岡がスパイとして送り込まれたのは「その上層部の裏情報をもみ消すため」に利用されてただけだったということも判明。

 

自分は本当のことは何も見えていなかったということ、自分が正しいと信じてやってきたことはすべて間違っていたということを一気に突きつけられて吹っ切れた日岡は、大上が殺されたことを知るやいなや、仁正会も尾谷組も一気にぶっ潰す!!というブチギレ展開に。

テツコ
ブチギレ映画大好きです。

あと、実は大上は日岡がスパイだということに気づいていたということも判明。

本部に報告するための日岡の「スパイノート」に、証拠を墨で塗りつぶしたりしながら(笑)添削されていて、最後のページには「ようやった。ほめちゃるわ」

もう「ガミさあぁぁぁん!!」と号泣しました。

 

で、ここから吹っ切れた松坂桃李の演技が本当に素晴らしいんですよね!

豚小屋でライターを発見して、大上がここで殺されたんだと確信したあと、五十子会の男をめちゃくちゃに殴りつけるんですが、ここの無表情な松坂桃李が本っ当に冷酷な目をしていて怖い

今年は松坂桃李は『娼年』ばっかり話題になってたけど、(そっちはまだ観てないんだけど)松坂桃李のベストアクトは間違いなく本作です!!拍手を送りたい。

尾谷組の若頭・一之瀬を焚きつけて五十子を殺させて、その直後てのひらを返して一之瀬も逮捕する日岡。

一気にヤクザを一掃します。

 

ここからは私の想像なんですけど、この作戦って、やろうと思えば大上もとっくにできてたことだと思うんですよね。

それでも尾谷組と仁正会の抗争を起こさせないように頑なになってた大上って、ヤクザをコマにしてたと言いつつも、実は心を捨てきれていなかったんじゃないかって思うのですよ。

そういう意味で、大上って実は結構人間味のある人物だったのかなと。

でも吹っ切れた日岡はそうじゃなかった。

完全に手段を選ばずにヤクザを叩きのめした日岡は、ひょっとしたら大上にできなかったことをやってのけたんじゃないですかね。

そんな風に思うくらい、松坂桃李の演技は鬼気迫ってたというか、心の中の何かを捨てた感じがビシビシと伝わってきて素晴らしかったです。

 

あと個人的に、この作品でかなり良い仕事してるなと思うのが特殊メイク・特殊造形の藤原カクセイ

藤原カクセイの映画のお仕事といえば、『アイアム・ア・ヒーロー』のゴア描写も素晴らしかったし、『ヒメノア~ル』の交通事故でボロボロになった足も泣けたけど、本作はそれを凌駕するスゴさだったと思います。

 

バイオレンス描写に磨きがかかるというのももちろんなんだけど、私が一番グッと来たのが、大上の水死体

大上が失踪したあたりから、「もしかして大上は死んだんじゃ……」みたいな雰囲気を登場人物も観客も感じ始めるんだと思うんですよ。

でも、劇中ではなんの手掛かりも出てこないし、殺されるシーンとかもこの時点ではまったくなし。

そんな中、発見された水死体を日岡と同じタイミングで観客はいきなり目の当たりにすることになる。

その水死体が……本当にリアルなんですよ。

リアルって言い方じゃ軽いかな。でも本当に大上の死体にしか見えない。

かぶせられたブルーシートを日岡がめくっていって、真っ青な手、膨れ上がった腹、そして顔……とあらわになっていくんだけど、暴行&水による膨張で原型がとどめないながらもちゃんと役所広司なんですよ。それがすごく残酷で。

その「顔」を見た瞬間、「ガミさんは死んだんだ。」って思って、すごくショッキングでポロポロと涙が出てきました。

あのシーンで胸が締め付けられた人は多いと思うんですけど、それはこの藤原カクセイの水死体による効果が大きかったんだと思うのです。

 

「死体」って人間の肉体そのものじゃないですか。

だから、あるキャラクターの死体を表現することにおいて、役者が死体を演じるというのが当然一番リアルに見せる方法だと思ってたんです。

でも、よく考えたら死体って肉の塊に過ぎないんですよね。

だから、生身の人間が演じるよりも、実は「モノ」であったほうが真に迫った感じが出るのかもしれない、なんてことを考えました。

 

それくらいあの水死体は、どう見ても役所広司の肉体でありながら、魂の宿っていない「肉」に見えて本当に心に刺さりました。

この特殊造形のクオリティが明らかに観客の心理に働きかけてると思う。

特殊造形に初めて泣かされた。藤原カクセイにはもう信頼しかないです……!!

 

あとは、ヒロインの阿部純子とのコインランドリーでの再会や大雨の中アパートに逃げ込むロマンス描写がグッと来た(『ベイビー・ドライバー』といい、コインランドリーは恋が始まる場所なのか)とか、真珠を取り出すシーンはめっちゃ笑った(特殊造形とはいえ、どアップならモザイクなしでいいんだ……笑)とか、東映やくざ映画インスパイアを随所に感じる演出にシビれたとか、いろいろ言いたいことはあるんですがこの辺で。

公開当初に1回観て、今年が終わる前にもう1回と思って2回目観に行ったんだけどすでにもう1回観たい。私、相当大好きだなこの作品。

 

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