あらすじ・キャスト・スタッフ
『ホドロフスキーのDUNE』
原題:Jodorowsky's Dune
2013年/アメリカ/90分
監督:フランク・パビッチ
製作:フランク・パビッチ、ステファン・スカーラータ、トラビス・スティーブンス
製作総指揮:ドナルド・ローゼンフェルト
共同製作:ミシェル・セイドゥー
撮影:デビッド・カバロ
編集:アレックス・リッチアーディ、ポール・ドハーティ
音楽:カート・シュテンツェル
キャスト
アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セイドゥー、H・R・ギーガー、クリス・フォス、ブロンティス・ホドロフスキー、リチャード・スタンリー、デバン・ファラシ、ニコラス・ウィンディング・レフン、ダン・オバノン
あらすじ
「ホーリー・マウンテン」「エル・トポ」などでカルト的人気を誇る奇才アレハンドロ・ホドロフスキー監督が映画化に挑んだものの、実現に至らず失敗に終わった幻のSF大作「DUNE」。フランク・ハーバートの「デューン 砂の惑星」を原作に、サルバドール・ダリやミック・ジャガー、オーソン・ウェルズ、メビウス、H・R・ギーガー、ピンク・フロイドら豪華スタッフ&キャストをそろえながらも、撮影前に頓挫した同作の驚きの企画内容や製作中止に追い込まれていった過程を、ホドロフスキー自身やプロデューサー、関係者へのインタビュー、膨大なデザイン画や資料などから明らかにしていくドキュメンタリー。
(映画.comより)
感想
この作品に関しては「映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーについてのドキュメンタリーらしい」という予備知識しかなく、ホドロフスキーの作品は『ホーリー・マウンテン』くらいしか観たことのなかった私は、特に興味がなくて公開当時はスルーしてました。
そもそも私はドキュメンタリー映画が結構苦手でして。
ドキュメンタリーって、「カメラの目の前にある現実をありのままに映す」ことで成り立ってるわけじゃないですか。
でも私は以前からずっと、「カメラを前にして1ミリも演技をしない人間は果たして存在するのだろうか?」と疑問に思っていたのです。
つまり、「現実をありのまま」映したドキュメンタリーなんてないんじゃないかと。
平野勝之の『監督失格』なんかも、林由美香の死を目の当たりにして泣きながら夜道を歩く監督自身をセルフで映した場面で心底冷めてしまっていました。
ただ、この『ホドロフスキーのDUNE』を観て、そんなドキュメンタリー映画への苦手意識が完全になくなりました。
というか、今までの自分のドキュメンタリー映画に対する向き合い方が間違っていたんだということに気づかされました。
ざっくり言うとこの映画は、映画監督ホドロフスキーが、フランク・ハーバートの小説『DUNE』を映画化しようとしたときの逸話を追ったドキュメンタリー。
豪華すぎるキャストやスタッフを揃えて撮影一歩手前まで行ったにもかかわらず、この作品の撮影は中止されてしまった。
なぜ企画は頓挫したのか?製作にいたるまでにどんなことがあったのか?
それを、当時のスタッフやホドロフスキー自身のインタビューによって明らかにしていく……という流れ。
アツすぎる仲間集めの物語
ホドロフスキーは『DUNE』を最高の映画にするために、最高のスタッフ【魂の戦士たち】を集めるために乗り出します。
目的を達成するために「仲間集め」を行っていく、さながら『七人の侍』のような熱い展開で、それぞれについてのエピソードを聞いているだけですごくワクワクする。
とにかく妥協したくないホドロフスキーは、「それぞれの分野で最高の戦士を集める!」と、名だたるスタッフ・キャストに交渉していくのですが、このエピソードがもう最高に面白いし、ロマンチック。
初めてデビッド・キャラダインに会う前、健康のためにビタミンEのサプリメントを買ったホドロフスキー。
彼は、部屋に入って来てサプリメントの瓶を見つけるなり、なんと一気にサプリメントをガブ飲み!
ビックリ仰天したホドロフスキーは、「君こそ私が探していた男だ!」と歓喜。
ホドロフスキーは、実の息子であるブロンティスに言いました。
「戦士になる準備をしろ」
ブロンティスを「魂の戦士」ポールにするために、有名な武道家ジャン=ピエール・ヴィニョーを指導者に指名し、空手などの武道や戦闘術を習わせます。
なんと2年間、毎日6時間!
大スターのミック・ジャガーとどうやったら接触できるのか、頭を悩ませていたホドロフスキー。
ある日、パリで招待されたブルジョアのパーティーに偶然ミック・ジャガーが来ていたらしい。
そしてホドロフスキーは、離れたところに立っているミック・ジャガーと目が合います。
するとミック・ジャガーは人ごみをかき分けながらホドロフスキーのもとに向かってきて、目の前に立って……
「私の映画に出てほしい」
「いいよ」
当時、美食にかまけて仕事の評判が最悪だったオーソン・ウェルズ。
ホドロフスキーは、ウェルズがよく行くレストランに行き、彼が一番好きなワインをシェフに聞いてその場で出します。
それでも出演を渋るウェルズに、ホドロフスキーは「撮影中毎日ここの料理が食べられるようにシェフを雇うよ」と言って落とします。笑
そして一番面白かったのが
銀河帝国の皇帝役:ダリニューヨークのホテルで偶然ダリと居合わせたホドロフスキー。
読んでいたタロット本の「吊られた男」のページに「一緒に映画を作りたい」と書いて渡すと、この誘い方が気に入ったダリは「バーで待ってる」
バーに行って話すと今度は「パリで待ってる」
パリで会うと、ダリはこう問いかけます。
「若い頃ピカソと一緒に海に出かけると、必ずいつも砂の中に時計を見つけた。君は砂の中に時計を見つけたことがあるか?」
よく意味が分からないですが(笑)、気の利いたことを言おうと悩んだ末にホドロフスキーは
「時計を見つけたことはない。でもたくさんなくした」
「なるほど。バルセロナで待ってる」
しかしその後もダリは出演を渋る。というかわがまま放題。
「ハリウッドで一番ギャラが高い俳優になるんだ!ギャラは時給10万ドル!」
困ったプロデューサーは、「出演時間1分につき10万ドル」で交渉。(ダリの出演時間は3分くらい)
するとダリは「1分で10万ドル稼ぐ俳優だ!」と大喜びで了承。
こんな風に、ウィットに富んだエピソードから「どこまでが本当なの?」というエピソードまで、本当に面白くて飽きない。
この映画は「ホドロフスキーが映画を作るまで」を追っているけど、それがもう「仲間集めの物語」として最高に面白い。
映画作りにかけるホドロフスキーの想い
そんな『DUNE』の制作に関するエピソードを語るホドロフスキーの表情が本当にキラキラしていて。目に光とエネルギーが宿りすぎている。
とにかく、ホドロフスキーがいかに情熱を持って、いかに魂を削って映画を作っているかということが十分すぎるくらい伝わってくるのです。
それほどの熱量を持って挑んだ『DUNE』ですが、撮影を目前にして企画は頓挫します。
それは、ホドロフスキーの持つ芸術性がハリウッドに拒まれてしまったから。
ホドロフスキーにとって映画は「商業」ではなく「芸術」。
ハリウッドが考えるSF映画からあまりにかけ離れていたのでした。
この映画で一番忘れられないシーンが、『DUNE』の頓挫についてホドロフスキーが語るシーン。
金なんかのために、ポケットの中のこんな紙切れなんかのために!
そう語るホドロフスキーは、それまで目をキラキラさせながら『DUNE』について語っていた彼からは想像もつかないほど怒りと悲しみに満ちた表情をしていて、その目が何とも言えなくて涙が止まりませんでした。
ホドロフスキーの『DUNE』は今も生き続けている!
そんな悲しい結末を迎えたホドロフスキーの『DUNE』ですが、絵コンテやイメージを保存した資料が残っていて、それが後のハリウッドSF映画に多大な影響を与えました。
ぶ厚すぎる資料。笑
スターウォーズ、ターミネーター、レイダース、コンタクト……などなど、この絵コンテを参考に撮ったシーンが使われている。
『DUNE』のラストシーンでは、主人公ポールは殺されてしまいます。
だけど、彼の精神は人類の精神となって永遠に生き続ける。
人々が口々に"I am PAUL!" "I am PAUL!"と叫ぶシーンがあります。
同じように、多くの創造をもたらした『DUNE』の魂は今なお多くのSF映画の中に残っていて、その作品たちは"I am DUNE!"と言っているのです。
1つの作品として『DUNE』は完成しなかったけれど、この『ホドロフスキーのDUNE』はそれ以上のことを成し遂げているような気がします。
この映画は全体を通して、メビウスの描いた絵コンテがスライドショーのように、ときにはアニメーションになって動く。
撮影すらされていない映画なのに、情景が鮮明に浮かぶんですよね。
つまり、ホドロフスキーが魂の戦士を集めて『DUNE』を作り上げる話と並行して、
『DUNE』の物語そのものも私たちは体感しているんです。
この映画の冒頭で、ニコラス・ウィンディング・レフンが言ってました。
「ホドロフスキーから『DUNE』の資料を見せられながら細部に至るまで説明を受けて、僕はこの『DUNE』の全貌を体感したんだ」と。
それと同じように、この『ホドロフスキーのDUNE』を観たということはつまり、私たちがホドロフスキーの『DUNE』の断片を観たということなのだと思いました。
私はドキュメンタリー映画は「現実をありのままに映し、その内容を正確に伝えるもの」だという印象をどこかで持ってました。
でもこの映画には、それ以上の物語が描かれている。
もちろんすべて実際にあったことではあるけれど、撮影して、編集して1つの「ドキュメンタリー映画」にすることで別の物語が生まれるんですね。
そこにフィクションかノンフィクションかなんてことは関係ない、「現実をありのままに映す」ことなんて問題じゃないんだなと思いました。
とにかく、この作品を通して私は完全にホドロフスキーという人物のファンになってしまったし、過去作もしっかり観なきゃ!と思いました。
ドキュメンタリーが苦手な人にもオススメしたい作品です。
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